息苦しさの、いちばんの敵

息苦しさのいちばんの敵は、苦しさそのものではありません
廣橋猛 2026.05.23
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大切な人が急に息苦しくなったとき、あなたまで一緒に慌ててしまったことはありませんか。実はその焦りが、相手の苦しさをさらに強めてしまうことがあるのです。

***

前回に続いて、重度のCOPD(慢性閉塞性肺疾患、肺気腫)を患う正雄さん(75歳)のお話です。

ある夜のことでした。

正雄さんは、トイレに行こうと布団から起き上がりました。少し歩いてトイレに立ち、用を足して戻ろうとしたそのとき、急に息が苦しくなったのです。

夜中に身体を動かしたことで、呼吸が追いつかなくなりました。「ゼーゼー」と肩で息をしながら、廊下で立ち止まる。あたりは暗く、家族はみんな寝静まっています。一人きりで苦しいなか、正雄さんの胸に、じわりと恐怖が広がりました。「このまま息が止まってしまうんじゃないか」。夜の暗さと静けさが、その恐怖をいっそう大きくしました。

物音に気づいた妻が飛び起きてきました。廊下でうずくまるように肩で息をする夫を見て、妻は頭が真っ白になりました。

「あなた、どうしたの! 大丈夫!? どうしようどうしよう」

妻はオロオロと正雄さんのまわりを動き回り、声は上ずっています。その慌てた様子を見て、正雄さんの恐怖はますます膨らみ、呼吸はさらに乱れていきました。

そのとき、その週から関わり始めていた訪問看護師さんのことを思い出し、妻が電話をかけました。看護師さんは電話越しに状況を察すると、まず妻に、ゆっくりとした声でこう言いました。

「奥さん、大丈夫ですよ。あわてなくて大丈夫。まず、奥さんが一緒に、ゆっくり息を吐いてみましょうか」

その落ち着いた声に、妻は少しずつ我に返っていきました。

息苦しさのいちばんの敵は、実は「恐怖」です。そして、その恐怖を和らげるカギは、本人が「安心」できることにあるのです。

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