「我慢しないで」と言ってきた私が、我慢した

緩和ケア医が、がん患者になって知ったこと
廣橋猛 2026.07.17
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その日は、いつもの健康診断でした。

私は緩和ケア医です。病院と患者さんのご自宅、その両方で、がん患者さんを診ています。その日も朝から回診を済ませ、勤務の合間に、職場の健診センターへ歩いていきました。

最後の検査は、首の超音波でした。担当してくれたのは、顔見知りの検査技師さんです。緊張のカケラもなく、私は検査台に横になりました。薄暗い天井を見上げながら、昼ご飯は何にしようかと考えていました。

技師さんの手が、同じ場所を何度もなぞります。

「先生、頸動脈は大丈夫なんですけど……甲状腺がちょっと。いくつか腫瘍っぽいものが見えます」

「えっ……」

それきり、言葉が出てきませんでした。検査室は、静まり返っていました。

検査着から着替えて、百メートルほど先の緩和ケア病棟へ戻りました。どうやって歩いたのか、覚えていません。看護師が何か話しかけてきましたが、私がなんと答えたのかも、覚えていません。

電子カルテの前に座って、三十分ほど、呆然としていました。

ああ、本当にがんってなるんだな。

自分は、ならないと思っていました。

***

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