痛みを隠す患者さんが、守ろうとしているもの
皆さん、こんにちは。緩和ケア医の廣橋猛です。
病院と在宅の二刀流で、つらい病気の患者さんやそのご家族などと関わっています。
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さて、緩和ケア外来というのは、さまざまな背景の方がいらっしゃる場です。一人ひとり違う人生、異なる病気や経過、そしてこれからの希望。いつも新鮮な出会い、そして驚きがあり、私にとってはとても大切な修行の場でもあります。医師になって何十年経とうが、それは変わらないのです。今日もそんな緩和ケア外来のある場面から始まります。
「大丈夫です」と言って、顔をしかめた
「痛みはどうですか」
「大丈夫です」
肺がんが骨に転移して、腰に痛みを抱えている患者さんでした。抗がん剤治療を続けながら、私の緩和ケア外来にも通院されています。
その日も、いつも通りの「大丈夫です」でした。でも、診察を終えて、椅子から立ち上がろうとしたその瞬間。明らかに、痛そうに顔をしかめたのです。腰をかばうように、ゆっくりと。
言葉は「大丈夫」。でも、体は大丈夫ではない。
このずれを、私たち緩和ケア医は、頻繁に見ています。
少し説明させてください。抗がん剤治療を受けながら、緩和ケア外来にも通う患者さんは、少なくありません。「緩和ケアは終末期のもの」と思われがちですが、そうではないのです。抗がん剤は内科の主治医が、痛み止めなど体を楽にするための薬は緩和ケア医が担当する。そういう役割分担で、治療と並行して通ってこられます。
だから私は毎回、「痛みはどうですか」と聞きます。そして「大丈夫です」と返ってきても、そこで終わらせません。もう少し、詳しく聞いていきます。
「レスキューは、どれくらい使いましたか。1日に何回くらい?」
レスキューというのは、痛くなったときに追加で使う、速効性の痛み止めのことです。オプソ、オキノーム、ナルラピドといった医療用麻薬がよく使われます。ベースの痛み止めで抑えきれない痛みを、その場でレスキュー(救援)する薬です。
「1日4〜5回くらいでしょうか」
そう答えられたとします。私の記憶では、以前は2〜3回だったはず。カルテを遡って、確認します。やはり、増えている。ここで、二つの可能性を考えます。
レスキューを積極的に、早めに使うようになったのなら、それは良いことです。痛みを早く抑えることで動きやすくなり、楽に過ごせているなら、むしろ理想的な使い方です。
でも、もうひとつの可能性も、考えなければなりません。痛みそのものが、強くなっているのではないか、と。
水を向けると、「実は……」と、痛み止めの効きが前より鈍っていることを打ち明けてくださる方がいます。一方で、なかなか打ち明けられない方もいる。自分の痛みを隠したり、あえて積極的には伝えなかったり。
痛みを隠すことには、理由があるのです。そしてその理由は、責められるようなものでは、まったくありません。