余命の数字より、「花火まで」という目標を
皆さん、こんにちは。緩和ケア医の廣橋猛です。
病院と在宅の二刀流で、つらい病気の患者さんやそのご家族などと関わっています。
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さて、猛暑で夏バテしていないでしょうか?
今日はそんな夏の風物詩を題材にお話しさせてください。
数字は、色を持たない
もう間もなく、浅草は隅田川の花火大会です。
この花火を目標にしている患者さんが、何人もいます。
「花火までは、頑張りたいんです」
そう言われるたびに、私は思うのです。人を支えるのは、数字ではないのだな、と。
予後が限られている方——たとえば進行がんの患者さんと、私はこんな対話をすることがよくあります。
「現実的な目標を立てて、まず、そこまで頑張りましょう」
余命が1〜2か月くらいかもしれない方なら、まず一か月。それが達成できたら、次の1か月。
目標は、何でもいいのです。
季節の節目でもいい。桜が見られるように。梅雨が明けるまで。年越しまで。
イベントごとでもいい。誕生日。旅行。大切な人との面会。楽しみにしていた会食。
そして、花火大会。
不思議なもので、「余命1か月」という数字より、「花火大会まで」という目標の方が、ずっと色鮮やかな意味を持ちます。数字は、ただの数字です。色も、匂いも、音もない。でも「花火まで」には、夜空の色があり、川面の匂いがあり、腹に響く音がある。だから、そこまで頑張ろうという意欲が湧きやすいのです。
実際、目標ができた患者さんは、顔つきが変わります。
リハビリへの取り組み方が変わる。食事を、もうひと口だけ頑張ってみようとされる。「その日は外出したいから、それまでに体調を整えたい」と、ご自分から症状のことを相談してくださるようになる。目標は、日々の小さな行動の理由になるのです。
ご家族にとっても、同じです。「あと一か月」と聞かされるより、「花火を一緒に見よう」の方が、ずっと過ごしやすい。カレンダーに丸をつけられる。その日に向けて、準備ができる。誰を呼ぼうか、何を食べようか、と相談ができる。数字は人を立ち止まらせますが、目標は人を動かします。
もちろん、そこがゴールではありません。達成できたら、また次の目標へ。花火が見られたら、次はお孫さんの誕生日。それが叶ったら、次は秋のお彼岸。そうやって、つないでいくのです。
大切なのは、遠すぎないこと。実現が可能そうなところに置くこと。
私はよく、各駅停車にたとえます。終点まで一気に行こうとしなくていい。まず、次の駅まで。着いたら、また次の駅まで。一駅ずつ、いきましょう、と。
——と、ここまでは、患者さんやご家族にもお話ししていることです。
でも、この「目標を立てる」という対話の裏側で、医師である私が何を考えているか。それは、あまり語られることがありません。今日は、そこを書いてみようと思います。