「点滴はしない方がいい」に、縛られていませんか

一般論は、目の前の一人を知らない
廣橋猛 2026.07.12
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皆さん、こんにちは。緩和ケア医の廣橋猛です。

病院と在宅の二刀流で、つらい病気の患者さんやそのご家族などと関わっています。

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「少しでも、点滴を」——その願いを、断っていませんか

「先生、少しでも点滴をしてもらえませんか」

ご家族が、そう願う。

でも、担当の医師はやんわりと首を横に振る。「今は、しない方がいいんですよ」と。

ご家族は、それ以上は言えません。医師がそう言うのだから、きっとそうなのだろう。専門家がそう言うのだから、と。少しだけ納得できないものを胸に残したまま、「そうですか」と引き下がる。

こういう場面を、あちこちで見かけます。

断る側の医師や看護師に、悪気はありません。むしろ、誠実です。終末期の患者さんに点滴を控えた方がいい理由を、きちんと知っているのです。だからこそ、自信を持って「しない方がいい」と言える。

その理由を、少しだけ噛み砕いておきます。

人は最期が近づくと、体が水分をうまく使えなくなっていきます。点滴で入れた水分が、血管の中にとどまってくれない。行き場を失った水分は、あちこちに漏れ出していきます。

肺のまわりにたまれば、息が苦しくなる(胸水)。お腹にたまれば、張って苦しくなる(腹水)。手足がむくむ。のどに痰がからんで、ゴロゴロと苦しそうな音が出る。

つまり、良かれと思って入れた点滴が、かえって患者さんを苦しめてしまうことがある。水分を足したはずが、苦しさを足してしまう。だから「終末期は点滴を控えた方が、楽に過ごせる」と言われます。栄養や水分を無理に入れるより、体が受け止められる範囲で、穏やかに過ごしてもらう。その考え方には、たしかに理があります。

これは、一般論としては正しい。私もそう思います。教科書に書いてある通りですし、緩和ケアの研修でも、まずこう教わります。

そして実際、この考え方は、終末期の医療に関わる人たちのあいだに、かなり深く浸透しています。「終末期に点滴をたくさんするのは、時代遅れ」。そんな空気さえある。かつて、亡くなる直前までたくさんの点滴を続けて、かえって患者さんを苦しめてしまった時代への、反省もあるのだと思います。

その反省は、まっとうなものです。

でも、私はこの「正しさ」に、ずっと引っかかっていることがあります。

正しい知識を持っている人ほど、その正しさに縛られてしまう。目の前の患者さんと、ご家族の気持ちが、その正しさに押し返されてしまう。そういう場面を、何度も見てきたからです。

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