「リストから自分で探せ」と言われても

リストを渡すことは、支援ではない
廣橋猛 2026.08.08
サポートメンバー限定

皆さん、こんにちは。緩和ケア医の廣橋猛です。

病院と在宅の二刀流で、つらい病気の患者さんやそのご家族などと関わっています。

このニュースレターでは、緩和ケアに関する話題、病気とともに生きるヒント、そして私が日々考えていることをご紹介しています。最近は登録いただける方も増えていて感謝しています。過去記事や毎月すべてのレターを受け取るにはサポートメンバーをご検討ください。

さて、緩和ケア外来というのは、さまざまな背景の方がいらっしゃる場です。一人ひとり違う人生、異なる病気や経過、そしてこれからの希望。いつも新鮮な出会い、そして驚きがあり、私にとってはとても大切な修行の場でもあります。医師になって何十年経とうが、それは変わらないのです。今日はそんな緩和ケア外来のある場面から始まります。

途方に暮れた、一本の電話

ある日、緩和ケア外来に一本の電話がかかってきました。

困惑した様子の、男性の声でした。

お話を伺うと、こういうことでした。

大きな病院で、奥様が末期がんと診断された。もうご高齢なので、抗がん剤治療はしない方がいいと勧められた。痛みもあり、体力も落ちていて、自宅から外出するのも楽ではない。

そこまでは、残念ながら、よくあるお話です。

問題は、そのあとに起きたことでした。

病院の相談室から、近隣の緩和ケア病棟と在宅医療のリストを渡されて、こう言われたというのです。

「ここから、ご自分で探してください」

探せと言われても。

どこが良いのか。どうしたら良いのか。男性は、途方に暮れてしまいました。

リストに並んでいるのは、病院やクリニックの名前と住所と電話番号です。どこが妻に合っているのか、どこが親身になってくれるのか、そこからは何も読み取れません。当たり前です。読み取れるはずがないのです。

私たちが家電を一つ買うときでさえ、口コミを調べ、比較サイトを見て、店員さんに相談します。ましてこれは、妻の残された時間を託す場所を選ぶという話です。それなのに、手元にあるのは名前と住所の一覧だけ。口コミもない。違いもわからない。電話をかけてみたところで、何を聞けばいいのかもわからない。

しかも、考える時間は限られています。奥様の体調は、待ってくれません。焦りだけが募っていく。

奥様は、できるだけ家で過ごしたいと言っている。夫として、それを少しでも叶えたい。でも、そのために何をどうすればいいのか、相談したくても、渡されたのはリストだけ。

立ち尽くした男性は、知人に勧められて、私たちの緩和ケア外来に電話をかけてこられた——そういう経緯でした。電話口の声には、疲れと、戸惑いと、それでも妻のために何とかしたいという必死さが、混ざっていました。

さすがに、それではダメだと思うのです。

考えてもみてください。これは、人生の大事な決断です。残された時間を、どこで、誰と、どう過ごすか。下手な選択をして、願いが叶わなかったら、後悔してもしきれません。

その決断を、リスト一枚で「ご自分で」と手放してしまう。

なぜ、こんなことが起きるのか。そして、この夫婦がその後どうなったのか。ここから先は、紹介する側・される側の裏側も含めて、率直に書きたいと思います。

この記事はサポートメンバー限定です

続きは、1632文字あります。

下記からメールアドレスを入力し、サポートメンバー登録することで読むことができます

登録する

すでに登録された方はこちら

読者限定
仏壇に話しかける私は、おかしいですか
サポートメンバー限定
余命の数字より、「花火まで」という目標を
読者限定
余命を告げる医師は、外れることを知っている
読者限定
「我慢しないで」と言ってきた私が、我慢した
読者限定
「大丈夫だから行ってきなさい」が、最後の言葉になった
サポートメンバー限定
「点滴はしない方がいい」に、縛られていませんか
サポートメンバー限定
治療から逃げ出した患者を、責められますか
読者限定
末期がんの患者を"欲しがる"在宅医が増える?制度改定の意外な副作用