海外では使われない!?痛みに効く湿布を選ぶコツ
皆さん、こんにちは。緩和ケア医の廣橋猛です。
「先生、痛み止めの飲み薬は、なんだか胃が荒れそうでイヤなんです。できれば、湿布でお願いできませんか?」
これは、私が日々の診療で本当によく耳にする言葉です。もしかしたら、これを読んでくださっているあなたや、あなたのご家族も、一度は同じように感じたことがあるかもしれませんね。
今回は、そんな私たち日本人にとって、あまりにも身近な「湿布」について、少し深く掘り下げてみたいと思います。肩こりや腰痛の”お供”というイメージが強い湿布ですが、実はがんの痛みを和らげる場面でも、意外な力を発揮してくれることがあるのです。
「たかが湿布、されど湿布」。この言葉の意味を、私の外来に通われている青木さんのエピソードから、一緒に紐解いていきましょう。
1. 「薬は飲みたくない」彼女が選んだ、一枚の湿布
私の緩和ケア外来に、乳がんの治療を続けながら、中華料理店で元気に鍋を振るう青木さんという女性がいます。彼女は乳がんが肩甲骨に転移しており、腕を動かすたびにズキンと走る痛みに悩まされていました。
「先生、痛みはつらいんです。でも、痛み止めの飲み薬だけは、どうしても抵抗があって…」

診察室で、彼女は少し申し訳なさそうに切り出しました。毎日忙しく働く彼女にとって、痛み止めの副作用で胃が荒れたり、眠気が出たりすることは、仕事に差し支える大きな問題でした。それに、何種類も薬を飲むこと自体が、いかにも「病人」という感じがして、気持ちが滅入ってしまう、とも話してくれました。
「先生、何か良い方法はないでしょうか。できれば、湿布がいいんです」
この青木さんの言葉は、決して特別なものではありません。日本では、彼女のように「貼る」という手軽で安心できる方法を好む方が、本当に多くいらっしゃいます。痛みを感じる場所に直接貼ることで、「ここに効いている」という実感を得やすいのかもしれません。
そんな私たち日本人にとっての”相棒”とも言える湿布ですが、実は海外では少し事情が違うようです。以前、海外で働く医師の友人から、こんなことを言われました。
「日本人は本当に湿布が好きだよね。僕の国では、痛みがあればまず飲み薬が当たり前で、あんなにたくさんの種類の湿布が薬局に並んでいる光景は、見たことがないよ」
彼の目には、日本の湿布文化が、まるで独自の進化を遂げた「ガラパゴス」のように映っていたのかもしれません。
確かに、ドラッグストアに行けば、冷たいタイプ、温かいタイプ、薄くて伸びるタイプ、匂いの少ないタイプ…と、驚くほど多様な湿布が棚を埋め尽くしています。ある介護施設の看護師さんから、「夜、眠る前に『腰に湿布を貼ってちょうだい』とお願いされるのが、入居者さんの日課になっているんですよ」と聞いたこともあります。もはや、治療というよりも、生活習慣の一部になっているのですね。
この「貼る」ことへの絶大な信頼感。それは一体どこから来るのでしょうか。そして、その一枚の湿布は、私たちの痛みに、本当に応えてくれているのでしょうか。
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- 2. あなたの痛みはどのタイプ? 湿布の上手な利用法
- 3. がんの痛みにも、湿布は頼れる味方になる
- 4. 家族を守るため「湿布に関する注意点」
- 5. 日本の湿布は、どこへ向かうのか
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