「何もできない」と思っているあなたへ

何もできないと思っていた姉が弟にしてあげた、たった一つのこと
廣橋猛 2026.02.15
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緩和ケア病棟は、一般の病棟とは少し雰囲気が違います。

廊下の照明はやわらかく、足音もどこか静かです。病室は個室が中心で、ご家族が持ち込んだ写真や花が飾られている部屋もあります。ナースステーションの横には小さな談話コーナーがあって、面会に来たご家族がお茶を飲みながら、ときに涙を拭きながら、ほっと一息つける場所になっています。

ある日の夕方、面会時間が終わる頃のことでした。

その談話コーナーの隅で、紙コップを両手で包んだまま、ぼんやりと座っている女性がいました。お茶はもう冷めているようでした。

声をかけると、その方はうつむいたまま、絞り出すように言いました。

「先生、私……あの人に何もしてあげられていないんです」

ご主人は膵臓がんで入院中でした。日に日に痩せていく身体。ほとんど手をつけなくなった食事。増えていく点滴の本数。ベッドの上で目を閉じている時間が長くなり、会話も少しずつ減ってきている。面会に行っても何を話せばいいのか分からず、ただ隣に座って、帰り際に「また来るからね」と言うのが精一杯。

「もっと何かしてあげたいのに、何をすればいいのか分からないんです」

冷めたお茶を持つ手が、小さく震えていました。

この言葉を、私はこれまで何百回と聞いてきました。

大切な人が病と向き合っているとき、家族がいちばんつらいのは、病気そのものではないのかもしれません。「自分には何もできない」という無力感。目の前で苦しんでいる人がいるのに、何もしてあげられない。そのもどかしさこそが、家族の心をいちばん深く傷つけるのではないでしょうか。

でも、私には確信していることがあります。

20年以上にわたり、4000人を超える患者さんの人生の最期に関わってきた中で、繰り返し目にしてきた事実があります。

「何もできない」と思い込んでいた家族が、実はいちばん大きな力になっていた——。

今日は、そのことをお伝えしたいと思います。

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