「大丈夫」は、大丈夫じゃないサインかもしれない
「大丈夫?」と聞いて、「大丈夫」と返ってきたとき、あなたはそこで会話を終わらせていませんか。
職場の同僚に、体調が優れなそうな友人に、看病している家族に……私たちは毎日のように「大丈夫?」と声をかけます。そして「大丈夫」という答えが返ってくると、ほっとして次の話題に移ってしまう。
でも、その「大丈夫」は本当に、大丈夫なのでしょうか。
ある日、50代の男性が相談に来られました。
肺がんで入院している母親のことでした。面会のたびに「大丈夫?」と聞くと、いつも「大丈夫よ」と返ってくる。痛み止めも効いているみたいだし、食事もある程度は摂れているし、心配はないと思う。そう話してくれました。
「でも先生、なんとなく気になるんです。大丈夫って言っているのに、表情がどこか暗くて」
その言葉が気になって、私はその患者さんに直接会いに行きました。
「最近、夜は眠れていますか?」
「……実は眠れていないんです」
「何か気になっていることはありますか?」
「……主人に迷惑をかけ続けているのが、申し訳なくて」
息子さんを前にしていつも「大丈夫」と答えていたその方が、私には10分も経たないうちに、夜の不安を、夫への後ろめたさを、ぽつりぽつりと話してくれました。
病室を出て、息子さんに伝えました。「お母さん、大丈夫じゃないところが、いくつかありますよ」と。
息子さんは目を丸くしていました。「え……あんなにいつも大丈夫って言うのに」

この記事を書いた医師のニュースレターについて
私は緩和ケアの専門医として、病気を抱えた患者さんとそのご家族と向き合う日々を送っています。緩和ケアの現場では、今回お話しする「大丈夫の裏に隠れたつらさ」のような場面に、毎日のように出会います。
ニュースレター「緩和ケア医・廣橋猛の『家族を守る処方箋』」では、看病や看取りに直面した家族に向けて、現場で本当に役立つ知識を毎月お届けしています。「なぜ患者は家族の前でつらさを隠すのか」「見えないつらさに気づくために家族ができること」「食べられなくなったとき、何をしてあげればいいのか」——そういったテーマを、実際の患者さんのエピソードとともに、できるだけ分かりやすく書いています。
なぜ「大丈夫」と言ってしまうのか
「大丈夫?」という言葉は、やさしさから生まれます。気遣いの言葉です。でも、この言葉には一つの落とし穴があります。