往診に行ったら、患者さんはパチンコ屋にいた
その在宅医療、本当に必要ですか
廣橋猛
2026.09.19
読者限定
玄関のドアをノックしても、返事がありません。
インターホンを押しても、応答なし。
がんの治療を終えた、一人暮らしの70代の男性。がん専門病院から「これから在宅医療を」という依頼を受けて、緩和ケア医である私が初めてご自宅に往診した日のことです。
もしかして、体調が急に悪くなっているのでは。不安になって、携帯電話にかけてみました。
すると、思いがけず元気な声が返ってきたのです。
「ああ、ごめんごめん。まだパチンコが終わらないんだよ」
電話の向こうから、ジャラジャラという音が聞こえてきます。間違いなく、パチンコ店からの電話でした。
一瞬、言葉を失いました。往診の約束を忘れて、パチンコに熱中している患者さん。がんの治療を終え、これから在宅医療を始めようという方が、です。
「まだ病院に通えるんだけどね」
数時間後、あらためて伺って、ようやくお会いできました。
たしかに治療を終えたばかりの方ではありましたが、自分で外出して買い物もできるし、外食もできる。もちろん、趣味のパチンコにも行ける。そういう状態でした。
私の困惑した表情を察したのでしょう。男性は、こう言われました。
「俺、まだ病院に通えるんだけどね。でも、往診してもらえって言われたんだよ」
その言葉には、どこか釈然としないものがありました。なぜ自分に在宅医療が必要なのか、ご本人もよく分かっていない様子でした。