「まだ早い」と言う人に、介護保険をどう切り出すか

理解することと、受け入れることは、別の問題
廣橋猛 2026.10.30
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皆さん、こんにちは。緩和ケア医の廣橋猛です。

病院と在宅の二刀流で、つらい病気の患者さんやそのご家族などと関わっています。

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「介護」という言葉が、嫌だった

70代の男性。大腸がんで、奥さんと二人暮らしの方でした。

「できるだけ、家で過ごしたい」

それが、ご本人の願いでした。だから私は、何度かお伝えしていました。家で過ごしたいなら、介護保険の申請は、早めにしておいて損はありません。今は必要なくても、体が急に変わるタイミングが来るかもしれません、と。

でも、手続きはされませんでした。

「介護」という言葉が、嫌だったのです。「まだ早い」と。

ある時期から、急に体が動きにくくなっていきました。トイレに行くのも大変になり、介護用のベッドも必要になりました。そこから慌てて、手続きを進めることになりました。

そのとき、こう言われたのです。

「先生、もっと早く、準備しておけばよかったんですね」

この気持ちが、私には、よく分かります。

介護保険を申請するということは、自分が「介護される側」になったと認めることのように感じられる。まだ自分で歩ける。トイレにも行ける。ご飯も食べられる。それなのに「介護」なんて、まだ自分には関係ない——そう思うのは、ごく自然なことです。この男性に限らず、同じように感じる方は、本当に多いのです。

少しだけ、制度のことを書いておきます。

介護保険は、一般には65歳から使える制度です。ただ、がんの患者さんは、医師が必要と判断すれば、40歳以上から使うことができます。40代、50代でも、です。

そして、申請してから実際に認定が出るまでには、時間が1ヶ月ほどかかります。体が急に変わってきてから申請しても、すぐには間に合わないことがある。だから、早めがいいのです。

申請しておけば、ケアマネジャーという、暮らしの相談相手が担当についてもらえます。介護用のベッド、簡易トイレ、手すり、シャワーチェア。必要になったときに、すぐ相談できる人がいる。それだけでも、家で過ごすための大きな安心になります。

ここまでは、医師として、理屈で説明できることです。私も、何度もこう説明してきました。

でも、理屈で説明しても、「まだ早い」という気持ちは、なかなか動きません。

では、私は診察室で、実際にどう切り出しているのか。正直に言えば、少しずるいやり方もしています。そして、あの男性に、もっと何かできたのではないかという思いも、まだ消えていません。ここから先は、そのことを書きます。

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