「痛いのは我慢」は間違い!~家族ができる、痛みを和らげる7つの魔法~
皆さん、こんにちは。緩和ケア医の廣橋猛です。
ご家族が病気でつらい思いをされているとき
「何かしてあげたいけれど、痛みはどうしようもないのだろうか」
「痛み止めはあまり使わない方がいいのかな…」
と、悩んでいらっしゃる方は少なくないと思います。
そして、痛みを抱えるご本人も
「病気だから痛いのは仕方ない」
「これくらいは我慢しなければ周りに迷惑がかかる」
と、つい痛みを堪えてしまう…。そんな光景を、私はこれまで何度も目の当たりにしてきました。
しかし、断言します。
「痛いのは我慢するしかない」というのは大きな誤解です。
そして、ご家族にも、その痛みを和らげるためにできることが、実はたくさんあるのです。
今回の「家族を守る処方箋」では、痛みに関するよくある誤解を解き、ご家族が実践できる「痛みを和らげるための7つの魔法」を具体的にお伝えします。
この記事が、つらい痛みを抱える大切な方と、それを支えるあなたの心を少しでも軽くして、穏やかな時間を取り戻すための助けとなることを願っています。
なぜ「痛いのは我慢」と思ってしまうのか?痛みにまつわる大きな誤解
「痛みは病気にはつきものだから、我慢するしかない」
「痛み止めを使い始めると癖になってしまう? だんだん効かなくなってしまうのでは?」
「モルヒネなんて使ったら、もう終わりだ」
…これらは、多くの患者さんやご家族が抱える、痛みや痛み止めに関する代表的な誤解です。
特に日本では、古くから「我慢が美徳」とされるような風潮もあり、痛みに対しても「これくらいは耐えるべきだ」と考えてしまう傾向があるかもしれません。
私自身も、甲状腺がんの手術を受けた後、医療者でありながら痛みを我慢してしまった経験があります。夜中に痛むときも、「看護師さんを呼ぶのは申し訳ない」と、つい遠慮してしまったのです。
しかし、痛みを我慢することは、ご本人にとって百害あって一利なしです。痛みは体力を奪い、食欲をなくさせ、眠りを妨げ、そして何よりも気力を失わせてしまいます。精神的にも追い詰められ、QOL(生活の質)を著しく低下させてしまうのです。痛みでつらい表情のご家族を見ることは、皆さんにとっても非常につらいことですよね。
大切なのは、痛みの原因を正しく理解し、適切な対処法を知ること。
そして、「痛みを我慢する必要はない」ということを、ご本人もご家族も理解することです。
痛みのサインを見逃さないで!家族だからこそ気づけること
「痛い」と口に出して訴えられない方もいらっしゃいます。
特に高齢の方や、自分の気持ちを表現するのが苦手な方、あるいは周りに心配をかけたくないと遠慮してしまう方の場合、その痛みに気づいてあげられるのは、一番近くにいるご家族です。
例えば、こういった変化で気がつくことができるかもしれません。
眉間にしわが寄っていたり、険しい顔つきをしているなど、いつもと表情が違う。
ため息が増えた。口数が極端に減った。
起き上がるのを嫌がる、腕をかばうといった、特定の動作を避けるようになった。
食欲が急になくなった。
夜、眠れていない。
イライラしやすくなった。
あるいは逆に元気がなく、ぼんやりしている。
これらの変化は、言葉にならない痛みのサインかもしれません。
日頃からご本人の様子をよく見ているご家族だからこそ、こうした小さな変化に気づくことができるはずです。
もし「いつもと違うな」と感じたら、まずは優しく声をかけてみてください。
「どこか痛いところはない?」
「つらそうに見えるけど、大丈夫?」と。
そして、どのような時に、どこが、どのように痛むのか、具体的に聞き出すようにしましょう。これらの情報を医師や看護師に正確に伝えることが、適切な治療への第一歩となります。
特に医療者に伝えるときは「痛いせいで◯◯ができない」といった生活への影響を中心にアピールすると、よりその深刻さを感じ取ってもらえると思います。
家族ができる、痛みを和らげる7つの魔法
それでは、ご家族にもできる「痛みを和らげる7つの魔法」をご紹介しましょう。
これらは特別なものではなく、日々の生活の中で少し意識するだけで実践できることばかりです。
魔法1:痛みを忘れさせる「気分転換の魔法」
「痛みの閾値(いきち)」という言葉があります。
これは、人が痛みを感じるボーダーラインのようなもので、この閾値が下がると弱い刺激でも痛みを感じやすくなり、逆に閾値が上がると痛みを感じにくくなります。あまり良い言葉ではありませんが、閾値が低い人のことを「痛がりな人」と言われることもあります。