「痛いのは我慢」は間違い!~家族ができる、痛みを和らげる7つの魔法~

医師や薬だけに頼らなくても痛みは和らぐ!家族にできる7つの方法を紹介します。
廣橋猛 2025.05.23
読者限定

皆さん、こんにちは。緩和ケア医の廣橋猛です。

ご家族が病気でつらい思いをされているとき

「何かしてあげたいけれど、痛みはどうしようもないのだろうか」

「痛み止めはあまり使わない方がいいのかな…」

と、悩んでいらっしゃる方は少なくないと思います。

そして、痛みを抱えるご本人も

「病気だから痛いのは仕方ない」

「これくらいは我慢しなければ周りに迷惑がかかる」

と、つい痛みを堪えてしまう…。そんな光景を、私はこれまで何度も目の当たりにしてきました。

しかし、断言します。

「痛いのは我慢するしかない」というのは大きな誤解です。

そして、ご家族にも、その痛みを和らげるためにできることが、実はたくさんあるのです。

今回の「家族を守る処方箋」では、痛みに関するよくある誤解を解き、ご家族が実践できる「痛みを和らげるための7つの魔法」を具体的にお伝えします。

この記事が、つらい痛みを抱える大切な方と、それを支えるあなたの心を少しでも軽くして、穏やかな時間を取り戻すための助けとなることを願っています。

なぜ「痛いのは我慢」と思ってしまうのか?痛みにまつわる大きな誤解

「痛みは病気にはつきものだから、我慢するしかない」

「痛み止めを使い始めると癖になってしまう? だんだん効かなくなってしまうのでは?」

「モルヒネなんて使ったら、もう終わりだ」

…これらは、多くの患者さんやご家族が抱える、痛みや痛み止めに関する代表的な誤解です。

特に日本では、古くから「我慢が美徳」とされるような風潮もあり、痛みに対しても「これくらいは耐えるべきだ」と考えてしまう傾向があるかもしれません。

私自身も、甲状腺がんの手術を受けた後、医療者でありながら痛みを我慢してしまった経験があります。夜中に痛むときも、「看護師さんを呼ぶのは申し訳ない」と、つい遠慮してしまったのです。

しかし、痛みを我慢することは、ご本人にとって百害あって一利なしです。痛みは体力を奪い、食欲をなくさせ、眠りを妨げ、そして何よりも気力を失わせてしまいます。精神的にも追い詰められ、QOL(生活の質)を著しく低下させてしまうのです。痛みでつらい表情のご家族を見ることは、皆さんにとっても非常につらいことですよね。

大切なのは、痛みの原因を正しく理解し、適切な対処法を知ること。

そして、「痛みを我慢する必要はない」ということを、ご本人もご家族も理解することです。

痛みのサインを見逃さないで!家族だからこそ気づけること

「痛い」と口に出して訴えられない方もいらっしゃいます。

特に高齢の方や、自分の気持ちを表現するのが苦手な方、あるいは周りに心配をかけたくないと遠慮してしまう方の場合、その痛みに気づいてあげられるのは、一番近くにいるご家族です。

例えば、こういった変化で気がつくことができるかもしれません。

眉間にしわが寄っていたり、険しい顔つきをしているなど、いつもと表情が違う。

ため息が増えた。口数が極端に減った。

起き上がるのを嫌がる、腕をかばうといった、特定の動作を避けるようになった。

食欲が急になくなった。

夜、眠れていない。

イライラしやすくなった。

あるいは逆に元気がなく、ぼんやりしている。

これらの変化は、言葉にならない痛みのサインかもしれません。

日頃からご本人の様子をよく見ているご家族だからこそ、こうした小さな変化に気づくことができるはずです。

もし「いつもと違うな」と感じたら、まずは優しく声をかけてみてください。

「どこか痛いところはない?」

「つらそうに見えるけど、大丈夫?」と。

そして、どのような時に、どこが、どのように痛むのか、具体的に聞き出すようにしましょう。これらの情報を医師や看護師に正確に伝えることが、適切な治療への第一歩となります。

特に医療者に伝えるときは「痛いせいで◯◯ができない」といった生活への影響を中心にアピールすると、よりその深刻さを感じ取ってもらえると思います。

家族ができる、痛みを和らげる7つの魔法

それでは、ご家族にもできる「痛みを和らげる7つの魔法」をご紹介しましょう。

これらは特別なものではなく、日々の生活の中で少し意識するだけで実践できることばかりです。

魔法1:痛みを忘れさせる「気分転換の魔法」

「痛みの閾値(いきち)」という言葉があります。

これは、人が痛みを感じるボーダーラインのようなもので、この閾値が下がると弱い刺激でも痛みを感じやすくなり、逆に閾値が上がると痛みを感じにくくなります。あまり良い言葉ではありませんが、閾値が低い人のことを「痛がりな人」と言われることもあります。

この記事は無料で続きを読めます

続きは、4953文字あります。
  • それでも痛みが続くとき…家族としてできること、考えること
  • おわりに

すでに登録された方はこちら

読者限定
誤解だらけの終末期の食事と水分補給 〜がんばって食べて欲しいけれど〜
読者限定
「先生、モテなさそう」と笑った女子高生が最期に言ったこと ~ケアするあ...
読者限定
「ホスピス」の名前の裏で… ~ホスピス型有料老人ホームの光と影~
読者限定
人生最期の一口はガリガリ君? ~栄養よりも大切な「味わう」ということ~...
読者限定
人が死ぬとき 最期の1週間に何が起こるのか ~穏やかな時間のために家族...
読者限定
「家族を自宅で看取りたい」その願いを叶えるための完全ガイド
読者限定
「ありがとうが言えなかった」 〜後悔を残さない看取りのための処方箋〜
読者限定
「もう限界…」と感じる前に 看病疲れを防ぐための3つのコツ