「家族を自宅で看取りたい」その願いを叶えるための完全ガイド

皆さん、こんにちは。緩和ケア医の廣橋猛です。
「家族を守る処方箋」をお読みいただき、ありがとうございます。
今回は、「家族を自宅で看取りたい」という、多くの方が一度は考え、そして同時に大きな不安を感じるテーマについて、私のこれまでの経験をもとに、具体的なステップや心の持ちよう、利用できるサポートなどを網羅的にまとめた「完全ガイド」としてお届けします。
ご自身や大切なご家族にとって「もしもの時」を考えるのは、決して簡単なことではありませんし、できれば考えたくないことかもしれません。しかし、事前に少しでも知識や心構えを持っておくことが、いざという時の混乱や後悔を減らし、ご本人にとってもご家族にとっても、より穏やかで納得のいく時間を過ごすための大きな支えになると、私は日々感じています。
非常に長いレターとなりますが、ご自身に関係のある部分だけでも、あるいは時間のある時に少しずつでも、目を通していただけましたら幸いです。このレターが、皆様の不安を少しでも和らげ、大切な方との時間をより豊かに過ごすための一助となれば、これ以上の喜びはありません。
それでは、本編をご覧ください。
全体の構成
① はじめに+導入エピソード:「“この家で見送りたい”父の願いと、揺れる家族の決意」
② 「“家で看取る”って、何から始めればいいの?」
③ 「“自宅での看取り”を支える仕組みと関わり方」
④ 後悔を減らすための「5つの処方箋」
⑤ 心のケアのためのメッセージ――「つらくて当たり前の時間」だから、あなたの気持ちも大切に
⑥ よくある不安とその答え――「こんなとき、どうしたらいいの?」にお応えします
⑦「そのとき」に慌てないために―― 死亡確認から葬儀まで、事前にできること
⑧ 看取りの瞬間と、家族ができること―― 最期の時間に、そばにいるということ
⑨ あなたの選択を、どうか誇ってほしい―― 大切なのは、悩みながら共に過ごした“その時間”です
⑩ まとめ:在宅で看取るために、今からできることチェックリスト
① はじめに+導入エピソード:「“この家で見送りたい”父の願いと、揺れる家族の決意」
「もう入院はこりごりだよ。治らないなら、家で過ごしたいんだ」
そう話してくれたのは、80代の山本さんです。胃がんの治療を続けていましたが、がんが進行し、抗がん剤の効果も薄れてきた頃、いったん病院を退院して、今はご自宅で過ごされています。
リビングで、テレビを眺めながら、ご家族と過ごす時間。湯気の立つお味噌汁の香り、孫の声、庭を吹き抜ける風。そうした何気ない日常の音がすぐそばにある空間が、山本さんにとって何よりの「安心」になっていました。病院では決して得られない、温かな時間です。

「このまま、ここで過ごしたいんだよ。できれば最期まで」
その言葉を聞いたご家族は、一瞬、言葉を飲み込みました。
「……お義父さん、そこまで考えてたんですね」
お嫁さんがそっとつぶやきました。
「帰ってこれて、嬉しそうに見えるけど……やっぱり最期も家がいいってことか」
長男さんは、手にした湯飲みを置きながら、少し戸惑ったように言いました。
それを聞いていたお母さんが、心配そうな声で口を開きます。
「でも……先生、私たちだけで看られるかしら。急に苦しみ出したら、どうしたらいいの? 夜中に具合が悪くなったら?」
「救急車を呼んだほうがいいのか、それとも、じっとそばにいてあげるのが正解なのか……。正直、分からないわ」
「“ちゃんと看取る”って、何をどうすればいいんでしょうね」
お嫁さんがぽつりと付け加えました。
——そう、不安や戸惑いが生まれるのは、当然のことなんです。 “家で看取る”なんて、誰にとっても人生で一度あるかないかの、初めての経験です。最初から自信満々なご家族なんて、まずいらっしゃいません。
もし、私がこの時のようなご家族の不安に向き合ったとき、まずその気持ちをゆっくりと受け止めるでしょう。
「そうですよね、急に『家で最期まで』と言われても、どうしたらいいか分からなくて当然です。不安になるのは当たり前ですよ」
「でも、皆さんが感じている『どうしよう』という迷いや、『本当にできるかな』という揺れる気持ちは、決して悪いことではありません。むしろ、それだけ真剣にお父様のことを考えている証拠なんです。その気持ちがあるからこそ、これから一緒に考えていけるんです」
おそらく山本さんのご家族からも、不安とともに、こんな気持ちも確かに伝わってくるはずです。
「できることなら、叶えてあげたい」
「この家で、いつもの空間で、送り出してあげたい」
その“揺れるけれど、優しい気持ち”こそが、在宅看取りを考える上での、何より大切な第一歩だと、私はいつも思っています。迷いながら、悩みながら、それでも「なんとかしてあげたい」と思う、その心からすべては始まります。
このガイドを読み終えるころには…
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「在宅医療って、どうやって始めるの?」
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「緩和ケアは病院じゃないと受けられないんじゃないの?」
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「家で苦しんだらどうしたらいい?」
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「家で最期を迎えるとき、どのようになるの?」
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「後悔しないためにはどうしたらいい?」
こういった疑問に、一つずつ答えていきます。 そして、読み終えたときにはきっと、 「自分にもできるかもしれない」「家族のためにできる準備をしておこう」 そんな前向きな気持ちを持っていただけるはずです。
“家で見送ってあげたい”という想い。それは、何より深い愛情の証です。 大丈夫、あなたは一人ではありません。 このガイドが、あなたのその想いを形にするお手伝いになれば、緩和ケア医として、これほど嬉しいことはありません。
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- ② 「“家で看取る”って、何から始めればいいの?」
- ③ 「“自宅での看取り”を支える仕組みと関わり方」
- ④ 後悔を減らすための「5つの処方箋」
- ⑤ 心のケアのためのメッセージ―「つらくて当たり前」だから、あなた自身の気持ちも大切に
- ⑥ よくある不安とその答え ―「こんなとき、どうしたらいいの?」にお応えします
- ⑦ 「そのとき」に慌てないために ― 死亡確認から葬儀まで、事前にできること
- ⑧ 看取りの瞬間と、家族ができること ― 最期の時間に、そばにいるということ
- ⑨ あなたの選択を、どうか誇ってほしい ― 大切なのは、結果ではなく、悩みながら共に過ごした“その時間”です
- ⑩ まとめ:在宅で看取るために、今からできることチェックリスト ―「そのとき」に備えることは、今を安心して過ごすための準備でもある
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